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うみのおどり
海の踊り
小川 未明
「少女画報」1929(昭和4)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,419 字 · 7 页
「英吉という、若者の乗っている船が、二、三日前に沖へ出たが、まだもどってこない。それに、海はこのような嵐なのだ。あの高い浪を見るがいい。どんなに、強いきかぬ気の若者でも、これを乗り切ることはできまい。おれはそう思うと気が気でなく、こうして、夜となく、昼となくほえているのだ。」と、松の木は、いいました。
紅い、いすかはしっかりと、小枝につかまって、耳を傾けて聞いていたが、
「その若者とあなたとは、どんな関係があるのですか?」とたずねました。
「おお、それを話そう。そうだ、雪のたくさん降った年だった。おれは、頭の上にかかる雪をはらっても、はらってもあとから降って、だめだった。あの野原や、小山に生えているような松の木とちがって、おれは、ひどい嵐にも、また雪にも負けるものじゃない。それが、とうとうその年ばかりは、雪の重みに堪えずに、根もとから二つに裂けてしまった。それどころか、もうすこしのことで、おれの半分の体は、がけの下に落ちてしまうところだった。おれは、そうなるまいと我慢をした。そのうちに、待っていた春になったのである。海の水が紫色に見え、消えてしまったが、ただ、おれの体の傷口は、沖から吹いてくる寒い風にさらされて、痛んで、このまま過ぎたら、枯れてしまうとさえ思われたのだ。