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かいひんいちじつ

海浜一日

宮本 百合子

「若草」1927(昭和2)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,953 字 · 8 页

青空文庫

佐和子と晴子は手をひき合い、かけ声をかけて砂丘をのぼって行った。

「何御用」

「Kへ行きませんか」

「行ってもよくてよ」

Kは九八丁距たった昔からの宿であった。

「電報を打たなけりゃならないから」

「じゃちょうどいいわ」

晴子が勢こんで手を叩いた。

「お姉ちゃま、晩の御馳走買って来ない?」

「よし! じゃ行こう」

彼等は街道を右にそれ、もう実をいだ後の蜜柑畑の間を抜けたり、汽車の線路を歩いたりして宿に入った。休日であったから、家々の子供等が皆往来で遊んでいる。そういう一群の子供達の横を通る時、晴子は極り悪そうな真面目な顔をした。宿には洋服の子供が一人もいなかったから、皆が遊びをやめて、晴子の制服と外套をじっと見るのであった。

親子は賑やかにいろいろ買物した。

「さあどっちの道を行こう、また山の方を廻るか?」

「海岸だめ?」

「海岸! 海岸!」

「それで歩けまい?」

佐和子の下駄は、朴歯だから平気であった。

「どうせ歩くのなら海岸を行きましょうよ」

父を真中に挾み、彼等は愉快に波打ちぎわを進んだ。太陽が二子山のかげに沈もうとしていた。いつか雪雲が浮んだ。それに斜光の工合で、蜃気楼のようにもう一つ二子山の巓が映っている。