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あざらしとう
海豹島
久生 十蘭
「大陸」1939(昭和14)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,311 字 · 48 页
釣道具も、猟銃も、ひとつ残らず焼けてしまい、この二た月の間、海鴨と卵だけで命をつないでいたのだといった。
一、八時頃になると、霧の中で雪が降りだし、沖から風が唸ってきてひどい吹雪に変った。島全体を雪の塊にしてしまうような猛烈な吹雪で、風は咆え、呻き、猛り狂い、轟くような波の音がこれに和した。小屋は絶えずミシミシと鳴り、いまにも吹き飛ばされてしまうかと思うほどだった。
夜半近くなると、風はいよいよはげしくなって行ったが、天地の大叫喚の中で、なんとも形容し難い唸り声をきいた。暴風の怒号の間を縫いながら、地下の霊が悲しみ呻くようなかぼそい声が、途絶えてはつづき途切れてはまた聞こえ、糸を繰りだすように綿々と咽びつづける。得体の知れぬこの声が耳について、とうとう朝までまんじりともすることができなかった。
第二日
一、吹雪はやんでいたが、風の勢いはいっこうに衰えない。氷の上を掃きたて、岩の破片と氷屑をいっしょくたに吹き飛ばしながら、錯乱したように吹きつづけている。この世の終りのような物凄い風だった。
朝食後、真赤に灼けた煖炉の傍に机をすえて報告書を書き出したが、船のことばかり気にかかって捗らない。