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あざらしとう
海豹島
久生 十蘭
「大陸」1939(昭和14)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,311 字 · 48 页
発揚状態はおさまったらしく、無感覚なようすでむっつりと腕を組み、私が入って行っても立ちあがろうともしない。
「のっそりしていないで、飯の仕度をしろ」というと、狭山はぶつぶつ呟きながら、不誠実なやりかたで食卓の上に食器をおきならべ、自分の寝台のある、薄暗い奥のほうへひきさがって行った。
空腹だったので、脇目もふらずに食事をつづけていたが、背後に視線を感じて振りかえってみると、狭山は寝台の上に片肱を立て、蚕棚から身体を乗りだすようにして、瞋恚と憎悪のいりまじったようなすさまじい眼ざしでこちらを睨んでいた。思わず床几から飛びあがろうとしたほど兇悪無惨な眼つきであった。
私が振りかえったのを見ると、狭山は急に眼を伏せ、いかにもわざとらしい慇懃さで、「薬罐はストーブの横にある」といいながらクルリと向うをむいてしまった。歯軋りする音がきこえた。
狭山にたいする高圧的な態度は、ひっきょう虚勢にすぎないのだが、狭山の感情を刺戟したのは失敗だった、なんとかして怒りを緩和しようと考え、背嚢から口を開けたばかりのウイスキーの角瓶をだし、
「そんなところにひっこんでいないで、こっちへ出てきてひと口やれ」