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りんらくのこうじょのおぼえがき
淪落の皇女の覚書
久生 十蘭
在线阅读久生 十蘭《淪落の皇女の覚書(りんらくのこうじょのおぼえがき)》,假名注音日语阅读。JLPT N2,点词查义。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,649 字 · 56 页
ヒリオガパラス皇帝は蛮族が迫ると知ると、高塔の階段に真珠をちりばめた黄金の延板を張り、いざ落城という折には塔の窓から飛び降りて自殺するつもりで、毎夜、塔の頂上の部屋で寝ていたが、かんじんのときに飛び降りそこね、あわれ蛮刀の錆になってしまった。アンテコオス三世はシリアの大王ともいわれる身で、酒興に乗じて寺院の宝物を盗みだそうとし、盗賊とまちがえられて夜番に殺された。サルディニアのエンツォイ王は刺客に追いつめられ、路上の酒樽の中で殺されたが、バッカス一世と異名のあった酒好きの王にとって、いかにもふさわしい最後というべきであった。
「人の血、人の罪、宿世の夢の結晶」とうたったひとがあるように、ロンドン塔の刑場で首を斬られたヘンリー八世の皇后カザリンやエドワード五世兄弟の死は無窮のあわれさを感じさせるが、ウラル山中の流寓の地下室で一族もろとも虐殺されたニコラス二世の最後におけるごとき滅入るような痛々しさはない。
ニコラス二世のわびしくも美しい容貌を写真で見ると、そのひとの異常な境遇も悲惨な最後も、さして異とするに足りぬ、天性の不幸の影といったものが、色濃く纒いついているかのように思いなされる。