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りんらくのせいしゅん

淪落の青春

坂口 安吾

「ろまねすく 第一巻第一号」ろまねすく社、1948(昭和23)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,729 字 · 36 页

青空文庫

「兵隊から帰ったばかりだから、新憲法が何だか、オレは何も知らんよ。いつから新憲法になるだね」

「来年の五月五日だ」

「なるほど。その日から他人だね。じゃア、それまでネバろうや」

「何をねばるんじゃ。入聟の返事か」

「居候のことさね。その日がきたら、出て行くことにしよう」

こういうことになっているから、貞吉の生活はあと半年ほど安泰で、村のチンピラ娘でも口説かなければその日を暮す当もないのである。

貞吉にも、それとなく当座の目当はあった。さしあたりヤミ屋をやろうということだ。つとめる当もなく、手に特別の職もないから仕方がないが、便利の時世で、右から左へ物をうごかすと、金になる。敗戦というものが、こんなに気楽に暮しよいものなら、結構なものだ。昔は物を右から左へ動かしたって、一文にもならぬ。

こういう便利な当があるから、貞吉は内々安心している。ノホホンとしていても、それとなく目にふれる限りのヤミ屋の流儀を観察して、他日にそなえる心構えが自然に生れているのである。

然し、正一郎は実際ヤリクリ四苦八苦であった。もっとも火の車だからヤッカイ者を邪魔にするわけじゃない。