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りんらくのせいしゅん

淪落の青春

坂口 安吾

「ろまねすく 第一巻第一号」ろまねすく社、1948(昭和23)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,729 字 · 36 页

青空文庫

もとより正一郎はそこにこだわる人物ではない。彼はもはや村一番の民主主義者となり、働かざる者は食うべからず、平等、同権、又、兄弟も他人である。人間は独立、自主、自由でなければならん。依存することは許されぬ。

衣子には、お前は東京へ行って事務員になってはどうだ。ダンサアもよい。女はパンパンをやっても食える。お前だけの美貌があれば、それが生活の資本で、どこへ行っても、独立の生計が営めるし、栄華もできるかも知れん。それが資本主義のよいところである。共産主義なら、女工になる、そっちでも食える。汽車賃は俺が出してやる。

然し、たった百円の汽車賃も今はもう出してやれなくなってしまった。

このへんでは一升四十円だせば米はいくらでも買える。正一郎には五升の米も気楽に買えない身分となり、時たま都会へ書画骨董を売りにでると、ニセモノだと難グセつけられ、捨て値同様値ぎり倒されてしまう。

幸蔵がにじりよって、

「兄さんはショーバイへたゞから、オレにまかせなさい。土蔵にいっぱい祖先伝来の書画があるんだもの、それでピイピイしていちゃ、笑い者になりますぜ。戦災も蒙らないから、洋服でも着物でもあるじゃありませんか。