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りんらくのせいしゅん

淪落の青春

坂口 安吾

「ろまねすく 第一巻第一号」ろまねすく社、1948(昭和23)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,729 字 · 36 页

青空文庫

「お嫁に行かなかったのか」

「ハア、亭主が戦死しましたでネエ。坊ッちゃまは御無事にお帰りで、何よりでございました」

「子供は生れなかったのか」

「ハア、坊が一人。あっちのウチのあととりに置いてきましたが」

そのとき、この谷ぞいの山道のふちに、崖下のたった三軒ある家の一軒から、パーマネントにモンペの娘がとびだしてきた。

それが例の娘であった。

「おや、君のうちはこゝかい」

「アラ、まア、昔の恋人が、仲がいゝことね」

お園が大きな冴えた笑いをたてゝ、

「坊ッちゃまはツネ子さんとダンスをなさったそうですね」

貞吉も笑った。するとツネ子がふきだして、ゲタ/\笑った。

なるほど、と貞吉は思った。彼を見る娘の視線が、彼の素性を知っての上と思われたのも道理であり、娘はお園の隣家の住人であったのだ。

「おでかけかい」

「えゝ、学校に忘年会と新年会の芝居の稽古があるのよ」

「じゃア、そこまで一緒に行きましょう」

「お園さんに悪くないの」

お園は又、大きな冴えた笑いをたてた。

昼間見るツネ子の顔は、そのハリキッタ体格にくらべて、冴えた顔色ではなかった。頬はベニで真ッ赤であるが、ハダの荒れが感じられた。