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しんざんのあき
深山の秋
小川 未明
「真理」1935(昭和10)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,725 字 · 10 页
雪が見えて、また来年ともなって、木々のこずえに新しい緑が萌し、小鳥のさえずるころにならなければ、ここへ上がってくる用事もなかったのでした。彼は、費い残りのしょうゆや、みそや、酒や、お菓子などの始末もつけなければならぬと思っていました。
「また、きょうも人の顔を見なかったな。」
そのとき、障子の破れ目から吹き込んだ風は、急に寒くなって身に浸み入るのを覚えたのでした。
「どこか、近くの山へ雪がやってきたな。」と、主人は、思いました。そして、明日の朝にでも、外へ出て、あちらの山を見たら、白くなっているであろうと、その山の姿を目に想像したのでした。音ひとつしない、寂然としたへやのうちにすわっていると、ブ、ブーッという障子の破れを鳴らす風の音だけが、きこえていました。
「去年も、この月半ばに山を下りたのだが、今年は、いつもより冬が早いらしい。」と、主人は、立って、窓の障子を開けて、裏山の方をながめました。
夕日は、もう沈んでしまって、怖ろしい灰色の雲が、嶺の頂からのぞいていました。このとき、キイー、キイーとさるのなき声がしたので、彼は、雪が降って、山奥からさるが出てきたのを知りました。