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ふかがわにょうぼう

深川女房

小栗 風葉

「新小説」1905(明治38)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,597 字 · 57 页

青空文庫

ねえ悪新だなぞと蔭口を叩く者もある。

けれど、その実吉新の主の新造というのは、そんな悪でもなければ善人でもない平凡な商人で、わずかの間にそうして店をし出したのも、単に資本が充分なという点と、それに連れてよそよりは代物をよく値を安くしたからに過ぎぬので、親父は新五郎といって、今でもやっぱり佃島に同じ吉新という名で魚屋をしていて、これは佃での大店である。

で、店は繁昌するし、後立てはシッカリしているし、おまけに上さんは美しいし、このまま行けば天下泰平吉新万歳であるが、さてどうも娑婆のことはそう一から十まで註文通りには填まらぬもので、この二三箇月前から主はブラブラ病いついて、最初は医者も流行感冒の重いくらいに見立てていたのが、近ごろようよう腎臓病と分った。もっとも、四五年前にも同じ病気に罹ったのであるが、その時は急発であるとともに三週間ばかりで全治したが、今度のはジリジリと来て、長い代りには前ほどに苦しまぬので、下腹や腰の周囲がズキズキ疼くのさえ辛抱すれば、折々熱が出たり寒気がしたりするくらいに過ぎぬから、今のところではただもう暢気に寝たり起きたりしている。