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ふかがわにょうぼう

深川女房

小栗 風葉

「新小説」1905(明治38)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,597 字 · 57 页

青空文庫

「ちょ! 芝居気のねえ野郎だな」と独言ちて、若衆は次の盤台を洗い出す。

しばらくするとまた、「こう三公」

「何だね? 為さん」

「そら、こないだお上さんのとこへ訪ねて来た男があるだろう……」

「為さんはまたお上さんのことばっかり言ってるね」

「ふざけるない! こいつ悪く気を廻しやがって……なあ、こないだ金之助てえ男が訪ねて来たろう」

「うむ、海に棲んでる馬だって、あの大きな牙を親方のとこへ土産に持って来たあの人だろう」

「あいつさ、あいつはあれ限りもう来ねえのか?」

「来ねえようだよ」

「偽つけ! 来ねえことがあるものか」

「じゃ、為さん見たのか?」

「俺は手前、毎日得意廻りに出ていねえんだもの、見やしねえけれど大抵当りはつかあ」

「そうかね」

「そうとも。きっと何だろう、店先へ買物にでも来たような風をして、親方の気のつかねえように、何かボソボソお上さんと内密話をしちゃ、帰って行くんだろう。なあ、どうだ三公、当ったろう?」

小僧は怪訝な顔をして、「俺はそんなとこを見たことはねえよ。だって、あれからまだ一度も来たのは知らねえもの」

「本当か?」

「ああ、本当に!」

「そんなはずはねえがな」