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ふかがわにょうぼう
深川女房
小栗 風葉
「新小説」1905(明治38)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,597 字 · 57 页
、欅の岩畳な角火鉢を間に、金之助と相向って坐っているのはお光である。今日は洗い髪の櫛巻で、節米の鼠縞の着物に、唐繻子と更紗縮緬の昼夜帯、羽織が藍納戸の薩摩筋のお召という飾し込みで、宿の女中が菎蒻島あたりと見たのも無理ではない。
「馬鹿に今日は美しいんだね」と金之助はジロジロ女の身装を見やりながら、「それに、俥なぞ待たしといて、どこぞへこれから廻ろうてえのかね?」
「はあ、少しほかへも……」と言って、お光は何か心とがめらるるように顔を赤める。
「じゃ、ちっとは新さんも快い方だと見えるね? そうやってお前が出歩くとこを見ると」
「いえね、あの病気は始終そう附き限りでいなけりゃならないというのでもないから……それに、今日佃の方から雇い婆さんを一人よこしてもらって、その婆さんの方が、私よりよっぽど病人の世話にも慣れてるんだから」
「それじゃ、病人の方は格別快いてえわけでもねえんだね?」
「ええ、どうもね」
「その代り、大して悪くもならねえんだろう」
「ええ」と頷く。
「そういうのはどうしても直りが遅いわけさね。新さんもじれッたかろうが、お光さんも大抵じゃあるめえ」
「そりゃ随分ね何も病人の言うことを一々気にかけるじゃないけど、こっちがそれだけにしてもやっぱり不足たらだらで、私もつくづく厭になっちまうことがありますよ。