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ふかがわにょうぼう
深川女房
小栗 風葉
「新小説」1905(明治38)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,597 字 · 57 页
「阿母さんもまあ! 何ぼ何だって、そんなに一年も二年も待たされてたまるもんですか。ですからね、向うの話は向うの話にしておいて、ほかにまた話がありゃそれも聞いて見て、ちっとでもいい方へ片づけてお上げなさりゃいいじゃありませんか」
「そんなにどこから話があるものですか」
「阿母さんはじきそんなことをお言いだけど、お仙ちゃんのようなあんないい娘を……誰だって欲しがるわ。私もまだほかにも心当りがあるから、その方へも談して見ましょう。今度のもそれは悪くはないけど何しろ船乗りという商売はあぶない商売ですからね、それにどこか気風の暴ッぽい者ですから、お仙ちゃんのようなおとなしい娘には、もう少しどうかいう人の方がとそうも思うんですよ」
ところへ、娘は帰って来た。あたりはいつか薄暗くなって、もう晩の支度にも取りかかる時刻であるから、お光はお仙の帰ったのを機に暇を告げたのである。時分時ではあり、何もないけれど、お光さんの好きな鰻でもそう言うからと、親子してしきりに留めたが、俥は待たせてあるし、家の病人も気にかかるというので、お光は強って辞し帰ったのであった。
中洲を出た時には、外はまだ明るく、町には豆腐屋の喇叭、油屋の声、点燈夫の姿が忙しそうに見えたが、俥が永代橋を渡るころには、もう両岸の電気燈も鮮やかに輝いて、船にもチラチラ