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せいひんのしょ
清貧の書
林 芙美子
「改造」1931(昭和6)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,061 字 · 36 页
後、私は蒲団の事については、長々と母へ礼状を書き送ってやったのであるが、枕の事については、礼の一言も、私は失念したかの形にして書き添えてはやらなかった。
五
躑躅はもちろん、うつぎや薊の花や桐の木が、家の周囲を取り巻いていた。この広い屋敷の中には、私達の家の外に、同じような草花や木に囲まれた平家が、円を描いたようにまだ四軒ほども並んでいた。
家の前には五六十本の低い松の植込みがあって、松の梢から透いて見える原っぱは、二百坪ばかりの空地だ。真中にはヒマラヤ杉が一本植っている。
「東京中探しても、こんな良い所は無いだろうね」
与一はパレットナイフで牡蠣のように固くなった絵の具をバリバリとパレットの上で引掻きながら、越して来たこの家がひどく気に入った風であった。
玄関の出入口と書いてある硝子戸を引くと寄宿舎のように長い廊下が一本横に貫いていて、それに並行して、六畳の部屋が三ツ、鳥の箱のように並んでいる。
「だけど、外から見ると、この家の主人は何者と判断するでしょうね、私はブリキ屋か、大工でも住む家のような気がして、仕方がないのよ」
「フフン、お上品でいらっしゃるから、どうも似たり寄ったりだよ。