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せいひんのしょ

清貧の書

林 芙美子

「改造」1931(昭和6)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,061 字 · 36 页

青空文庫

「まだ五時位なのに誰だろう」そんな事を考えながら、襖を押して庭の透けて見える硝子戸を覗くと、大きな赭ら顔の男が何気なく私の眼を見て笑った。背筋の上に何か冷いものが流れた気持ちであったが、私も笑ってみせた。

「小松君起きてるウ?」

「随分早いんですね、ただ今起します」

朝の光線のせいか、何もかも新しいものをつけている紳士が、このように早く与一を尋ねて来ると云う事は、よっぽど親しい、遠い地からの友人であろうと、私は忙がしく与一を揺り起した。

「そんな友人無いがね、小松って云ったア?」

「ええ、起きているかって笑って云っているのよ」

「変だなア」

与一が着物を着ている間に、私は玄関の鍵を開けた。

すると、どうであろう、四五人の紳士達が手に手に靴を持ったまま、一本の長い廊下を、何か声高く叫びながら、三方に散って行った。驚いて寝室に逃げこむ私の後からも、二人の紳士が立ちはだかって叫んだ。

「君が小松与一君かね?」

与一も面喰ったのだろう、脣を引きつらせてピクピクさせていた。

「ちょっと、署まで来てもらいたい」

「へえ、……いったい何ですウ、現行犯で立小便位なら覚えはあるンですが、原因は何んですウ」