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せいひんのしょ

清貧の書

林 芙美子

「改造」1931(昭和6)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,061 字 · 36 页

青空文庫

私はその男と二年ほど連れ添っていたけれど、肋骨を蹴られてから、思いきって遠い街に逃げて行ってしまった。街に出て骨が鳴らなくなってからも、時々私は手紙の中に壱円札をいれてやっては、「殴らなければ一度位は会いに帰ってもよい」と云う意味の事を、その別れた男に書き送ってやっていた。すると別れた男からは、「お前が淫売をしたい故、衿に固練の白粉もつけたい故、美味いものもたらふく食べたい故、俺から去って行ったのであろう、俺は今日で三日も飢えている。この手紙が着く頃は四日目だ、考えてみろ」――

この華やかな都会の片隅に、四日も飯を食わぬ男がいる。働こうにも働かせてくれぬ社会にいつもペッペッと唾きを吐き、罵りわめいている男が……私はこのような手紙には何としても返事が書けず、「あなたひとりに身も世も捨てた」と云う小唄をうたって、誤魔化して暮していた。

間もなく、魚谷と云う男も結婚したのであろう、大変楽し気な姿で、細々とした女と歩いているのを私は見た事がある。ちょうど、そのおり、私は白いエプロンを掛けていたので、呼び止めはしなかったけれど、私も早く女給のような仕事から足を洗わねばならぬと、地獄壺の中へ、働いただけの金を落して行く事を楽しみとしていた。