轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
しぶやけのしそ
渋谷家の始祖
宮本 百合子
「中央公論」1920(大正9)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,023 字 · 133 页
が、然し、それは決して与えられなかった。望み、求める第一のものが与えられないのみならず、それ等は刻一刻と彼の周囲から遠のいて行くようにさえ見えた。
「愛すと云ってくれ。信子。どうぞ。ただ一言、愛す、とだけ云っておくれ、それで俺は救われる」
亢奮した正隆は、泣きながらかき口説いて、白い信子夫人の手を引絞るだろう。
「どうぞ信子、ほんとのことを云ってくれ、俺を愛す! と云っておくれ、信じておくれ、それで、俺は助かるんじゃあないか、信子!」
瞬間、夫人の瞳は、彼の言葉に刺戟されて、微かな輝きを持つ。然し、次の瞬間、諦めを含んだ憫笑と、もっと性的な圧苦しい嫌厭が齎す冷笑とを、鮮やかに赤い唇に浮べる夫人は、やがて、彼の感激とは、まるで宇宙の異うような冷淡さで、
「もう分りました。さあ、気を鎮めてお休み遊ばせ」
という返答ほか与えないのである。
正隆が、たとい一万度、同様の哀願を繰返しても、夫人の表情は変らなかっただろう。ただ、一度は一度と、半ば義務的な夫人の返事が、その僅かな潤いすら失って来るだけなのである。
こうなると、もう正隆は、ほんとに気違いになりそうになって来た。