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とせんば
渡舟場
豊島 与志雄
――近代説話――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,509 字 · 24 页
曇った夜で、妙になま暖く、霧がかけていました。
元彦は酔って足許がふらついていました。提灯を持ってる中村佳吉の、和服にマントをひっかけた肩へ、よりかかるように手をかけました。
「おい、中村、闇商売の仲つぎなんか止せよ。」
「うん、やめることにしてるよ。」と中村は素直に笑顔で答えました。
「よろしい。だが、そんなことを続けたら、いつまでたっても八重子はお前にやらんぞ。妹だが、子供のような、そして大人のような、えたいの知れないあのちっちゃな魂に、俺は惚れこんじゃった。妹でなかったら、俺は八重子と結婚する。そしたら、お前は加代子と結婚しろ。なあ、加代子、加代ちゃん、君は中村を嫌いじゃなかろう。好きだって言え、好きだって……。」
加代子は中村の方を顧みて囁きました。
「ずいぶん酔ってるのね。」
それを、元彦は引き取りました。
「なに、酔ってるって、ばかを言うな。真面目なことを考えてるんだ。この河に、昔から今まで、幾人の人間が溺れ死んだか、そしてこれから、幾人の人間が溺れ死ぬだろうかと、真面目に考えてるんだ。なあ重兵衛さん、たくさん溺れたろうね。」
「さあ、どんなもんだか。