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とせんば

渡舟場

豊島 与志雄

――近代説話――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,509 字 · 24 页

青空文庫

然しそのあとには、牧田一家五人がやって来る約束でした。

船頭の重兵衛爺さんの仕事は殖えました。河向う三粁ほどのところに小さな町がありまして、そこへ地元の物資をひそかに売り出すことを、中村の息子の佳吉は仕事としていました。芋や野菜や豆類が、相当の闇価を負って河を渡りました。また、町の小料理屋の小松屋に、加代子という若い女中がいて、そこへ岩田の息子の元彦はしげしげ通いました。夜遅く河を渡ることもありました。

川原一家が移転する時には、重兵衛爺さんは汗を流して舟を操りました。川原一家は東京で罹災したのですが、主な家財は前以てここに疎開してありましたので、すっかり移転するとなると、可なりの荷物となりました。さまざまな箱や菰包みが、一日のうちに河を渡りました。翌日の午後、川原一家の四人が、河を渡りました。東京の知人の家に一泊して、それから北海道へ向うのでした。

岩田と中村の人たちは、川原一家を町の電車まで見送るつもりでしたが、俄にそれをやめて、渡舟の河岸で別れました。送別のささやかな酒宴のため、老若男女によって多少の差はあれ、誰もみな酔い心地でいました。それが、河岸だけで別れる口実となりました。