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おんじょうのゆたかななつめさん
温情の裕かな夏目さん
内田 魯庵
「新小説 文豪夏目漱石号」1917(大正6)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,980 字 · 6 页
「どうも私は障子を半分張りかけて置くのは嫌いだから、失礼ですが、張ってしまうまで話しながら待っていて下さい。」
そんな風で二人は全く打ち解けて話し込んだ。私は大変長座をした。夏目さんは人によってあるいは門前払いをしたり仏頂顔したりするというが、それも本当だろう。しかし私は初めてからそんな心はしなかった。英雄人を欺くというから、あるいはそうかも知れんが、しかし私はそんな気持はしなかった。その後は何かの用があったりして、ちょいちょい訪ねて行くこともあったが、何時でも用談だけで帰ったことがない。お忙がしいでしょうから二十分位と断って会うときでも、やはり二、三時間も長座をするのが常例だった。
夏目さんは好く人を歓迎する人だったと思う。空トボケた態度などを人に見せる人ではなかった。それに話が非常に上手で、というのは自分も話し客にも談ぜさせることに実に妙を得た人だった。元来私は談話中に駄洒落を混ぜるのが大嫌いである。私は夏目さんに何十回談話を交換したか知らんが、ただの一度も駄洒落を聞いたことがない。それで夏目さんと話す位い気持の好いことはなかった。夏目さんは大抵一時間の談話中には二回か三回、実に好い上品なユーモアを混える人で、それも全く無意識に迸り出るといったような所があった。