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こんとんみぶん

渾沌未分

岡本 かの子

「文芸」1936(昭和11)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,232 字 · 33 页

青空文庫

自分が人を揶揄することを好んで人から揶揄されることを嫌うのは都会的諷刺家の性分で、父親はそれが娘だとぐっと癪に触った。しばらく黙っていたが、跳ね返す警句を思いつく気力もなく、

「兄弟分でもなんでもない、全く一つのものだ」

と低い声音に渾身の力を籠めて言った。これだけ真面目に敬蔵が娘に云うことはめったにない。窮してやむを得ずこれだけまともに言ったのだ。そのせいか、彼はそのあと急に気まりの悪い衰えた顔つきをして、そっと汗を拭いた。

父親は電球の紐を伸して、水泳場の下へ入って行った。そこでしばらくごそごそしている様子だった。

「いい具合に宵闇だ。数珠子釣りに行って来るかな」

そういって、道具を乗せて田舟を漕ぎ出して行った。父のその様子を、小初は気の毒な儚い気持ちで見送ったが、結局何か忌々しい気持になった。そして一人留守番のときの用心に、いつものように入口に鍵をかけ、電燈を消して、蚊帳の中に這入り、万一忍び込むものがあるときの脅しに使う薄荷入りの水ピストルを枕元へ置いた。小初は横になり体を楽にするとピストルの薄荷がこんこん匂った。こんこん匂う薄荷が眼鼻に沁み渡ると小初は静かにもう泣いていた。