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こんとんみぶん
渾沌未分
岡本 かの子
「文芸」1936(昭和11)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,232 字 · 33 页
「ちっとも苦しんでるように見えないわ」
「この間、水の中で君に…………、こんなに腫れた」
薫は黒くなっている唇の角をそうっと大事に差し出して見せる。
「あら、それで怒ってるの」
「違う――君はとても強い。なまじっかなこと云い出せないもの」
じりじりと照りつける陽の光と腹匍いになった塚の熱砂の熱さとが、小初の肉体を上下から挟んで、いおうようない苦痛の甘美に、小初を陥れる。小初は、「がったん、すっとこ、がったん、すっとこ」そういいながら、あらためて前に組み合せた両肘の上に下膨れの顔を載せて眠りそうな様子をする。
「なに、云ってるの」
「機械のベルトの音」
ちょうど、水泳場と塚山と三角になる地点に貝原の持ちの製板場があって、機械の止まっているのが覗かれる。
「きゅう、きれきれきれきれきれ。これは機械鋸が木を挽く音」
「ふざけるの、よしよ。真面目な相談だよ。僕は知ってる」
「知ってる? 何を」
「どうせ貝原に買われて行くんでしょう」
「誰が、どこへ」
「知ってる。みんな」
「そんなこと、誰が云った」
「誰も云わない。だけど、僕、その位なこと、わかる男だ」
薫は女のような艶めかしい両腕で涙を拭いた。