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こんとんみぶん
渾沌未分
岡本 かの子
「文芸」1936(昭和11)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,232 字 · 33 页
子供のうちから新舞踊を習わせられ、レヴュウ・ガールとも近附のある小初は、媚というねたねたしたものを近代的な軽快な魅力に飜訳し、古典的な青海流の飛込みの型にそっと織り込ますことぐらい容易である。生ぬるい水中へぎゅーんと五体がただ一つの勢力となって突入し、全皮膚の全感覚が、重くて自由で、柔軟で、緻密な液体に愛撫され始めると何もかも忘れ去って、小初は「海豚の歓び」を歓び始める。小初の女学校時代からのたった一人の親友、女流文学者豊村女史にある時、小初は水中の世界の荒唐無稽な歓びを、切れ切れの体験的な言葉で語った。すると友達はその感情に関係ある的確な文学的表現を紹介した。
クッションというなら全部クッションだ。
羽根布団というなら全部羽根布団だ。
だが、水の中は、溶けて自由な
もっといいもの――愛。
跳ねて破れず、爪割いて
掻きらりょうか――愛。
それで海豚は眼を細めている。
一生、陸に上らぬ。
これは希臘の擬古狂詩の断片をざっと飜訳したものだそうだ。それと同じような意味を父の敬蔵は老荘の思想から採って、「渾沌未分の境涯」だといつも小初に説明していた。
瞼に水の衝動が少くなると小初は水中で眼を開いた。