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こはんていじけん
湖畔亭事件
江戸川 乱歩
「サンデー毎日」大阪毎日新聞社、1926(大正15)年1月3日~5月2日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,335 字 · 137 页
では、あの対岸の村人が感じた火葬場の匂を何と解釈したらいいのでしょう」
「だが、ここで少しも匂のしなかったのが変ですね」
巡査は半信半疑で更に問いかけました。私とても、何となくこの説には服し兼ねました。
「焼いたのは人の寐ている真夜中に相違ありません。少々匂が残っていても、朝までには強い風に吹き飛ばされてしまいます。竈の灰はいつも湖水の中へ捨てるのですから骨も何も残りません」
実に途方もない想像でした。なる程火葬場の匂がしたという動かし難い事実はありましたけれど、それだけの根拠で、河野のように断じて了うのは余りに突飛ではないでしょうか。私は後に至るまでこの疑問を捨てることが出来ませんでした。それは兎も角、死体の処分如何に拘らず、三造が犯人だということは、河野の検べ上げた事実だけで十分判明しました。
「早速三造を捉えて尋問して見ましょう」
河野の演説が一段落つくと、村の巡査はやおら腰を上げたのです。
われわれ三人は、庭づたいに浴場の焚場をめがけて近づきました。もう十時頃でした。やっぱり風の強いやみ夜です。私はいうにいわれぬ、恐怖とも憐憫ともつかぬ感情のために、胸の躍るのを禁ずることが出来ませんでした。