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こはんていじけん
湖畔亭事件
江戸川 乱歩
「サンデー毎日」大阪毎日新聞社、1926(大正15)年1月3日~5月2日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,335 字 · 137 页
大がかりなトランク捜索が何の甲斐もなくて、多少この事件をもて余していた裁判所は、三造の死によって、救われた様な気がしたかも知れません。検事達は間もなく麓の町を引上げました。警察は捜索をいつとなく中止した形となりました。そして、湖畔の村は、又元の静寂に帰りました。
最も馬鹿を見たのは湖畔亭です。その当座は物好きな客達が、問題の浴場を見物かたがたやって来るのもありましたが、その内に、長吉の幽霊が出たとか、三造の呟き声が聞えたとか、噂は噂を生んで、附近の人でさえ湖畔亭を避ける様になり、遂には一人の客さえない日が続きました。そして、今では別の旅館が建ち、さしも有名であった湖畔亭は見るかげもなく寂れはてているという事です。
読者諸君、以上が湖畔亭事件の表面上の物語りです。A湖畔の村人の噂話や、Y町の警察署の記録に残っている事実は、恐らくこれ以上のものではありません。それにも拘らず、私のお話の肝要な部分は、実はこれから後にあるのです。といっても、うんざりなさるには及びません。その肝要な部分というのは、ほんの僅の、原稿紙でいえば二三十枚でかたづく事柄なのですから。