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こはんていじけん
湖畔亭事件
江戸川 乱歩
「サンデー毎日」大阪毎日新聞社、1926(大正15)年1月3日~5月2日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,335 字 · 137 页
なにいいです。この次まで乗り越しましょう。もう、とても降りられないから」
と弁解がましくいいました。いうまでもなく彼はわざと降りそくなったのです。それを思うと、私は幾らか無気味に感じないではいられませんでした。
二マイル何十チェンの次の駅は、またたくひまにやって来ました、その駅の信号標が見え初めた頃、河野はもじもじしながら妙なことをいい出したものです。
「君、折入ってお願いしたいことがあるんですが、一汽車遅らせて下さる訳に行きませんか。この駅で下車して、つぎの上りが来るまでの間、三時間程ありますね、その間僕のお願いを聞いて下さることは出来ないでしょうか」
私は河野の不意の申出に、面くらいもし、気味悪くも思いましたが、彼が余り熱心に頼むので、まさか危険なこともあるまいと考え、それに好奇心を押え兼ねた点もあって、兎も角彼の提案を容れることにしました。
私達は汽車をおりると、駅前のとある旅籠屋に入り、少し休ませて貰いたいといって、奥まった一室を借り受けました。隣室に客のいる様子もなく、密談にはおあつらえ向きの部屋です。
註文の酒肴を運んで、女中が立去ると、河野は非常にいいにく相に、もじもじして、てれ隠しに私に酒をすすめなどしていましたが、やがて、青ざめた頬の筋肉を、ピリピリと痙攣させながら、思い切った体で初めまし