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こはんていじけん

湖畔亭事件

江戸川 乱歩

「サンデー毎日」大阪毎日新聞社、1926(大正15)年1月3日~5月2日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,335 字 · 137 页

青空文庫

二人は黙って睨み合っていました。それは口に出すには余りに恐しい想像だったのです。

「しかし、普通のトランクでは、とても人間一人は入りませんね」

やがて、河野は青ざめた目の下をピクピクさせながらいうのでした。

「もうその話は、止そうじゃありませんか。まだ誰が殺したとも、いや殺人があったということさえ極っていないのですから」

「そうはいっても、あなたもやっぱり私と同じことを考えているのでしょう」

そして私達は、又黙り込んでしまいました。

一番恐しいのは、一人の人間を、二つのトランクに分けて入れたという想像でした。それは誰にも気づかれぬ様に、浴場の流し場で、死体を処理することは出来たかも知れません。そこではどんなに夥しい血潮が流れても、皆湖水の中へ注ぎ込んでしまうのです。しかし、そこで彼等は、長吉の死体をまっ二つに切断したのでしょうか。私はそれに思い及んだ時、ヒヤリと自分の背骨に斧の刃がささった様な痛みを感じました。彼等は一体何を以てそれを切断したのでありましょう。あらかじめ兇器を用意していたか、それとも庭の隅から斧でも盗み出して来たのか。

一人は入口のドアの所で見張り番を勤めたかも知れません。