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たきみのたび
滝見の旅
伊藤 左千夫
「日本」日本新聞社、1900(明治33)年10月26日、27日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,937 字 · 4 页
舟、菖蒲が浜に着く。湯本道なり。舟を上れば竜頭の滝あり。しばらく遊びて後戦塲が原に出ず。いろいろの草花うつくしくおのがしし色に誇るが中に菖蒲の花なん殊に多かりける。
二荒の山の裾野にあかねさす紫匂ふ花あやめかも
櫻草の花によく似る紫の花めでつゝも名を知らずけり
花あやめしみ咲きにほふ紫の花野を來れば物思もなし
紫の雲ゐる野べに朝遊び夕遊びます二荒の神
湯の滝を見、湯本に遊びて帰る。中禅寺の湖をながめて
天雲のいはひもとほる湖の上に眞白片帆の舟歸る見ゆ
歌袋歌滿ちあふるなめ革のかはり袋のありこせぬかも
歌袋の歌は文して格堂にからかいやりしなり。此夜も山田屋に宿る。明日は華厳の滝壺に下りんとて長塚も我もいさみきおう。先ず歌幸を祈らばやとて詠む。
二荒の山にまします女神だち歌のわく子にさちあらせたまへ
翌日朝早く案内者一人召し具し二人きおいにきおいて滝壺に下る。岩崩れ足辷る。手に草をつかみてうしろ向きになりて少しずつ下り行く。危き橋をようように這いわたりて終に下り着くに滝のしぶき一面に雨の如く足もとより逆に吹きあぐるさますさまじく恐ろしく暫くも彳みかねつ。僅にかえり見れば小き円きうつくしき虹の我身をめぐりて目の下に低く輝けるあり。