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そうせきのじんぶつ
漱石の人物
和辻 哲郎
「新潮」1950(昭和25)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,438 字 · 23 页
楯を突いていた連中でも、たまに漱石からまじめなことを一言言われると、ひどく骨身に徹して感じたようであった。断層のために幾分弟子たちの間に感情のこだわりができたのは、芥川の連中が加わるようになってからではないかと思う。そのころ私は鵠沼に住んでいた関係で、あまりたびたび木曜会には顔を出さなかったし、またたまに訪れて行った時にはその連中が来ていないというわけで、漱石生前には一度も同座しなかった。従ってそういうことに気づいたのは漱石の死後である。
木曜会で接した漱石は、良識に富んだ、穏やかな、円熟した紳士であった。癇癪を起こしたり、気ちがいじみたことをするようなところは、全然見えなかった。諧謔で相手の言い草をひっくり返すというような機鋒はなかなか鋭かったが、しかし相手の痛いところへ突き込んで行くというような、辛辣なところは少しもなかった。むしろ相手の心持ちをいたわり、痛いところを避けるような心づかいを、行き届いてする人であった。だから私たちは非常に暖かい感じを受けた。しかし漱石は、そういう心持ちや心づかいを言葉に現わしてくどくどと述べ合うというようなことは、非常にきらいであったように思われる。