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そうせきのじんぶつ

漱石の人物

和辻 哲郎

「新潮」1950(昭和25)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,438 字 · 23 页

青空文庫

そうしてこういう廊下に南と東と北とを取り巻かれた書斎と客間は、廊下に向かって西洋風の扉や窓がついており、あとは壁に囲まれていた。だからガラス戸が引き込めてあると、廊下は露台のような感じになっていた。しかしそのガラス戸は、全然日本風の引き戸で、勾欄の外側へちょうど雨戸のように繰り出すことになっていたから、冬はこの廊下がサン・ルームのようになったであろう。漱石の作品にある『硝子戸の中』はそういう仕掛けのものであった。そこで廊下から西洋風の戸口を通って書斎へはいると、そこは板の間で、もとは西洋風の家具が置いてあったのかもしれぬが、漱石は椅子とか卓子とか書き物机とかのような西洋家具を置かず、中央よりやや西寄りのところに絨毯を敷いて、そこに小さい紫檀の机を据え、すわって仕事をしていたらしい。室の周囲には書棚が並んでおり、室の中にもいろいろなものが積み重ねてあって、紫檀の机から向こうへははいる余地がないほどであった。客間はこの書斎の西側に続いているので、仕切りは引き戸になっていたと思うが、それは大抵あけ放してあって、一間のように続いていた。客間の方は畳敷で、書斎の板の間との間には一寸ぐらいの段がついていたはずである。