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せんこうてい「ハビヒツブルグ」

潜航艇「鷹の城」

小栗 虫太郎

小栗虫太郎『潜航艇「鷹の城」』。同一底本的分册已合并为一书。收入:潜航艇「鷹の城」、一週一夜物語、地虫、人魚謎お岩殺し。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,395 字 · 263 页

青空文庫

すると、摂氏十度でこれが氷結する。ところが、二十五度になれば沸騰をはじめるんだ。それで、栓がだんだんに持ち上がっていって、尾錠の梃子を下から押し上げる。扉は明く、そうして、エーテルの噴気で半魔睡に陥ったやつを、君はらくらくと料理してしまったのだ。どうだい、この事件の、天の配剤というやつは、昨夜君が、炊事場をうろついていたことにあったのだよ。しかし、まだエーテルの魔術は、それだけではなかった」

お勢の顔には、一抹の血の気もなく、すでに観念しているのか、嘲ら笑うような影さえ見えた。左枝は、相手の動作を警戒しながら続けてゆく。

「それは、君が途方もない魔術を使って、稲野谷兵助という、仮空の人物を作り上げたことだ。ねえ女将、あのエーテルと鯨蝋との混合物は、時によると舞台や高座でも使われる。それが沸騰する時は、しだいに輪廓の外側から消えてゆくのだからね。だからもし、衝立にでも人間の形を描いて、気温を高めた場合には、ちょうどそれが、遠ざかってゆく人影のように見えるじゃないか。女将、君の企んだその二役には、微妙なこと、まさに人間業とも思われない……まるで、機にある梭糸のような計画があったね。