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しょうねん

潤一郎ラビリンスI――初期短編集

谷崎 潤一郎

谷崎潤一郎『潤一郎ラビリンスI――初期短編集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:少年、幇間、恐怖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,319 字 · 84 页

青空文庫

今更飛んでもない事をしたと云う風に、仙吉は心配らしく私と顔を見合わせる。

「なに云っつけたって構うもんか、女の癖に生意気だから、毎日喧嘩していじめてやるんだ」

信一が空嘯いて威張って居る所へ、今度はすうッと徐かに襖が開いて、光子が綺麗に顔を洗って戻って来た。餡と一緒にお白粉までも洗い落して了ったと見え、却って前よりは冴え/″\として、つやのある玉肌の生地が一と際透き徹るように輝いて居る。

定めし又一と喧嘩持ち上るだろうと待ち構えて居ると、

「誰かに見つかるときまりが悪いから、そうッとお湯殿へ行って落して来たの。―――ほんとに皆乱暴だったらありゃしない」

と、光子は物柔かに恨みを列べるだけで、而もにこ/\笑って居る。

すると信一は図に乗って、

「今度は私が人間で三人犬にならないか。私がお菓子や何かを投げてやるから、皆四つ這いになって其れを喰べるのさ。ね、いゝだろ」

と云い出した。

「よし来た、やりましょう。―――さあ犬になりましたよ。わん、わん、わん」

早速仙吉は四つ這いになって、座敷中を威勢よく駈け廻る。其の尾について又私が駈け出すと光子も何と思ったか、

「あたしは雌犬よ」