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しょうねん

潤一郎ラビリンスI――初期短編集

谷崎 潤一郎

谷崎潤一郎『潤一郎ラビリンスI――初期短編集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:少年、幇間、恐怖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,319 字 · 84 页

青空文庫

「さあ、そろ/\乗ろうじゃありませんか。どうぞお先へ。」

「えゝ、ありがと」

私は依然煮え切らない挨拶をして、其の癖K氏に勧められるまゝずる/\と引き擦られるように、あの恐ろしい、物凄い、電車の傍へ近寄って行った。

「さあ、さあ、どうぞお先へ。」

K氏は何度もこう云って、両手で私の腰を煽るようにした。

「それでは、御免蒙ります。」

思い切って、眼を潰って、私はひらりと昇降口を跨いだ。そうして、室内へ入ると即座に吊り革へぶら下って、ウイスキーの喇叭飲みをやった。(腰をかけて了うよりは、まだ吊り革にぶら下って居る方が、いくらか運命の手を弛められて居るように感じるのだ。)

「どうもお盛んですな。餘程御酒を召し上ると見えますな。」

と、Aさんが云った。

「ナニ僕は電車が嫌いですから、酒に酔ってゞも居ないと、気持が悪くなって仕様がないんです。」

私は、医者に話をするとしては、少し理窟が立たぬような弁解をした。

カオーッと笛が鳴って、電車がとう/\走り出した。

「いよ/\己は死ぬのかな。」

と、私は心の中で呟いた。断頭台へ載せられる死刑囚の気持も、此れと同じに違いないと思った。

「Aさんどうです、Tさんは検査に合格しますか知ら。