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しおかぜ

潮風

豊島 与志雄

――「小悪魔の記録」――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,018 字 · 25 页

青空文庫

その度に、片野さんは眼を見張って、図形を眺めた。その図形が法にかなってたかどうかは、俺には分らない。だが彼自身ではひどく天才じみた気分になってたのだろう。すっかり興奮しきって、額にはかるく汗さえ出していた。

やがて、十枚ばかり書きちらすと、後は鉛筆を投げ出して溜息をついた。それから、むしゃむしゃ干物をたべてしまい、酒をのみだした。

銚子が空になると、彼はそれを手にして立ち上った。よろけかかったのをふみ止って、そのまままた坐りこんだ。

「おい、お代りだ。」

「はい。」

返事がしたので、俺はびっくりしたが、無意識に呼んだ彼自身は、なおびっくりしたらしかった。じっと声の方を見つめていたが、やがて、佐代子が銚子を持ってくると、総毛立ったような表情になった。

「ばか、まだ起きてろのか。」そして彼はちょっと息をついた。「なんだって寝ないんだ。寝てしまえと云っといたじゃないか。僕は仕事をしてるんだ。人が起きてると邪魔になるんだ。君がそんなところに起きてるもんだから、見給え、仕事が出来なくなってしまった。何をまごまごしてるんだ。僕を泥棒だとでも思ってるのか。ばかな、誰が持ち逃げなんかするものか。