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とろ
瀞
佐藤 垢石
「続たぬき汁」星書房、1946(昭和21)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,908 字 · 30 页
新宮へも一泊した。泊まった熊野川の橋の袖鉱泉宿は構えが大きいだけで、まことに不親切であったけれど、新宮の街は道が狭いとはいえ、落ちつきのある親しみ深い空気が流れていた。熊野神社の境内もおごそかである。ここの宮司も、友釣りの大の愛好者で、私の著書の愛読者でもあった。
朝夕の新涼を、肌に快く感ずる頃、日足の熊野川に別れ、遠州の奥西渡の天龍川を指して新宮から木の本、矢の川峠、尾鷲をへて、伊勢の宮川に添いつつ相可口に出たのである。西渡の天龍川で釣ったのは僅かに半日で、翌日から台風に襲われ、天龍の山鮎の大物に接する機会を得なかったのである。天龍の鮎は上等の質とはいえないけれど、形の大きいのと力の強いのでは、飛騨の宮川と並び称されるであろう。
七
娘がいうに、兄さんばかり釣りに伴って私ばかり家に置いていくのは不公平でしょう。と父に苦情を持ち出すのである。
そこで、私は兄妹を伴い巣離れの鮒を狙い、水之趣味社の人々と行を共にして、千葉県と茨城県にまたがる水郷地方へ釣遊を試みたことがある。それは、娘が女学校の一、二年の頃であった。それから、千葉県の手賀沼へも二、三回鮒釣りに連れていった。