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とろ
瀞
佐藤 垢石
「続たぬき汁」星書房、1946(昭和21)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,908 字 · 30 页
海雀の群れが、波間に隠見する。かもめが舞う。岬の突端を彩る深緑の樹林は、山稜を伝って次第に高く行くにつれ、果ては黒く山の地肌を染めて、最後には峰の雲に溶け込んでいる。遠い山腹に、金色に輝く一点がある。その一点から発する光線は、稲妻に似て強くまぶしく眼を射るのである。あれは、山村の物持ちの家の縁側の硝子障子に、朝陽が反射するのであろうか。
なんと静かな、親しみ深い風景であろう。南国の眺めは、旅心に清麗の情を添えてくれるのである。
三
午すこしまわった頃、汲江の奥の高知の港へ着いた。森下雨村は、数日来坐骨神経痛に悩まされ、臥床しているというので、美しい森下夫人が可愛い十歳ばかりになる坊やと共に、私ら親子を波止場まで迎えにきてくれた。
雨村の邸は、高知から西方六里の佐川町にある。そこから、わざわざ夫の代わり、親の代わりとして私らを迎えてくれたのである。波止場の改札口に、佐藤垢石様と書いた半紙を、二尺ばかりの棒に吊るして、十歳ばかりになる少年が、あまたの旅人を品定めしているのを私らは行列の後ろの方からながめた。
雨村の病気は、予想したよりも早く快方に赴いた。