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てん
点
小川 未明
「新天地」1909(明治42)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,063 字 · 17 页
……時計の刻む音は、火の気のない寂然とした広間に響いて、針線は目に見えぬ位に、しかし用捨なく進んだ。
三時二十分は過ぎたけれど、その子供はまだやって来なかった。やがて三時三十分は過ぎたけれどまだ見えなかった。
今時計の長針は三十分と四十分の間にあった。
この時表の扉の外でコトコトと小さな足で雪を落す音がした。……来たのである。
ギーイと重たい扉が開くと、年の頃十二三の子供が雪に塗れて、手足を赤くして入って来た。
翁はまだ、死んだ如く、説教壇の前に跪ずいて祈りを捧げている。
子供は怖る怖る翁の傍に近寄って、
「先生。」と呼んだのである。
けれど翁には、この声が聞えなかった。再び子供は、
「先生。」と呼びかけた。
けれど翁の身体は、びくとも動かずに跪ずいたまま眤としていた。
「先生!」と稍々大きく叫んだ。
この時、翁は空想から醒めたもののように、静かに身を起して端然として子供の前に起ち上って、自分の前に寒さと一種の畏敬の念に戦えて立っている子供を見下した――その眼には涙が湛えられて、顔には神々しい柔和な光りが輝いていた。
子供は、今迄斯様優しい、懐しい、顔を仰いだことがなかった。