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えぼしだけのちょうじょう
烏帽子岳の頂上
窪田 空穂
「早稻田文學 第二百三號」早稻田文學社、1922(大正11)年10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,432 字 · 15 页
もう頂上の方へも行って来ましたよ。」
九州に育って、山らしい山へは登ったことのない本居君は、大町から見える小高い山を、端から名前を尋ねて困らせた。あれほどの山は名をもっていないというと、不思議なようにしていた。この烏帽子の頂上に対して、今何んな感じを起しているかは、私の思量の外らしい。
「頂上まで行ったのかい?」
「行きましたよ。高山植物が何とも云えませんね。ずっと向うのほうに、槍ヶ岳のような山が見えましたが、あれは何ていうんだろうな……」
「僕も行こうと思っているんだ。」
「何ならもう一度行ってもいい。」
「顔洗った?」
「ええ。」
「僕も顔洗ってにしよう。」
そう云いながらも私は、そこに本居君と一しょに立って、周囲の展望を始めた。
薬師岳、それが第一に目に付く。私たちのこれから縦走しようとしている山脈は、この烏帽子を起りとしているが、薬師のあるのはそれとはちがった山脈で、こちらと平行している。そして深い谿谷を隔てて、その全容の望まれるだけの距離をもっている。
昨日の夕方、初めてここへ来た時、途中から同行することになった大阪の新聞記者で、登山家である小林君が、