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えぼしだけのちょうじょう

烏帽子岳の頂上

窪田 空穂

「早稻田文學 第二百三號」早稻田文學社、1922(大正11)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,432 字 · 15 页

青空文庫

られて来たのであった。私はこの思い懸けない気分に捉われて、暫くその光景を眺めつづけていた。

「とにかく、顔を洗おう。」

私はそこを離れた。そして焚火の側を過ぎって、雪渓のほうへ行った。

雪渓は、縁のところだけ雪が溶けて、浅い池のようになっていた。生えたまま枯れている草の葉や、こぼれた米などが底に見えた。手をひたすと冷たくて、まさしく冬の水だった。

焚火のところへ帰って来ると、案内は起きて、火にあたって煙草をすっていた。

「頂上へ行って来ますよ。」

「飯をしまってから入らしたほうがいいでしょう。」

案内はおだやかには云ったが、私を見上げた眼には、明らかに命令する色があった。私は黙って随わざるを得なかった。

山の食事が始まった。焚火をめぐって、土の上へ胡座をかいてする食事である。本居君と私とは適当な食器を用意することを知らなかった。二人はいつも、アルミニュームの小さな水飲で、飯も食べ味噌汁も吸うのであった。

飯が済むと、私はすぐに頂上へ行こうとした。

「行かない?」と私は横山君に勧めた。横山君はそろそろ登山家のうちへ数えられようとする人で、私たちを連れ出した人である。