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からすうりのはなとが

烏瓜の花と蛾

寺田 寅彦

「中央公論」1932(昭和7)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,472 字 · 17 页

青空文庫

ある日の暮方、時計を手にして花の咲くのを待っていた。縁側で新聞が読めるか読めないかというくらいの明るさの時刻が開花時で、開き始めから開き終りまでの時間の長さは五分と十分の間にある。つまり、十分前には一つも開いていなかったのが十分後にはことごとく満開しているのである。実に驚くべき現象である。

烏瓜の花は「花の骸骨」とでも云った感じのするものである。遠くから見ると吉野紙のようでもありまた一抹の煙のようでもある。手に取って見ると、白く柔らかく、少しの粘りと臭気のある繊維が、五葉の星形の弁の縁辺から放射し分岐して細かい網のように拡がっている。莟んでいるのを無理に指先でほごして開かせようとしても、この白い繊維は縮れ毛のように捲き縮んでいてなかなか思うようには延ばされない。強いて延ばそうとすると千切れがちである。それが、空の光の照明度がある限界値に達すると、多分細胞組織内の水圧の高くなるためであろう、螺旋状の縮みが伸びて、するすると一度にほごれ拡がるものと見える。それで烏瓜の花は、云わば一種の光度計のようなものである。人間が光度計を発明するよりもおそらく何万年前からこんなものが天然にあったのである。