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ほのおのなかにうたう
焔の中に歌う
野村 胡堂
「文芸倶楽部」1928(昭和3)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,476 字 · 27 页
――」
美しい歌姫は、そのしなやかな両手を、不思議な蔓草のように投げかけて、ひしひしと深井少年にからみ付き乍ら、声を限りに泣き叫ぶのでした。
その夜深井少年は、逃げるようにして、駒鳥絹枝の家を抜け出しました。が、事件はそれでお仕舞になったのではありません。明る日の東京中の夕刊は、思いもよらぬ惨事を載せて世聞を驚かしたのです。
それは、有名な歌手駒鳥絹枝嬢の宏荘な邸宅が焼けて、世界的名ソプラノにして、花の如く美しかった嬢は、その焼跡から真黒焦の死体になって現われたという記事でした。放火の嫌疑者として、若い按摩が一人、現場から挙げられました。
猛火が邸宅を嘗め尽して、最後に三階の一角を残した時、白衣の絹枝嬢はバルコニーに立ち現われて、渦巻く火焔に包まれ乍ら歌い狂ったとも伝えて居ります。逃げれば逃げられた命を、我から進んで猛火の中に果したのは、何んな仔細のある事であろう。兎に角この美しい歌い手の最期の凄惨な有様に、野次馬も消防夫も、思わず顔を蔽って正視する者が無かった――とも伝えられました。その時、邸の後ろの広場には、一人の小按摩が立って居て、猛火の中にも凜々と響き渡る絹枝嬢の「死の独唱」