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ほのおのなかにうたう

焔の中に歌う

野村 胡堂

「文芸倶楽部」1928(昭和3)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,476 字 · 27 页

青空文庫

この人の歌には、一時世界一と言われた美しい歌い手――後に活動役者になって、世界中のファンを唸らせた――あのゼラルディン・ファラーのおもかげがあると言われて居ります。

ファラーの声は非常に魅惑的で、男性を悩殺しなければ止まない、不思議な響を持って居りますが、駒鳥絹枝の声にも、それに似た蠱惑的な響きがあって、一度聴いたものは、どうしても忘れることの出来ない、惑乱を感じさせられると申して居ります。

それに、この歌い手の異常な美しさが、いやが上にもその人気を高めて、この女の周囲には、何時でも夥しい崇拝者の群れが――日本風に言うと狼連が――取り巻いて居るという噂も、深井少年は充分に知り尽して居りました。

「マア嬉しい、あなた、私を御存じ、そう独唱会で? 音楽はお好き? そう嬉しいワネ」

女はそう言い乍ら、深井少年の手を取らぬばかりに、押し並んで深々と長椅子にかけました。

何時の間に呼んだか、その時室の扉をノックして、そっと入って来た小間使へ、

「あの、何んか飲物を持って来て……それから運転手へ、怪我をしたと思った方は、一時気を失っただけで、何んともなかったから、心配をしないようにと言っておくれ」