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むざん
無惨
黒岩 涙香
「小説叢」1889(明治22)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,602 字 · 56 页
明治廿二年十月中旬
香夢楼に坐して梅廼家かほる識す
上篇(疑団)
世に無惨なる話しは数々あれど本年七月五日の朝築地字海軍原の傍らなる川中に投込ありし死骸ほど無惨なる有様は稀なり書さえも身の毛逆立つ翌六日府下の各新聞紙皆左の如く記したり
◎無惨の死骸 昨朝六時頃築地三丁目の川中にて発見したる年の頃三十四五歳と見受けらるゝ男の死骸は何者の所為にや総身に数多の創傷、数多の擦剥、数多の打傷あり背などは乱暴に殴打せし者と見え一面に膨揚り其間に切傷ありて傷口開き中より血に染みし肉の見ゆるさえあるに頭部には一ヶ所太き錐にて突きたるかと思わるゝ深さ二寸余の穴あり其上槌の類にて強く殴打したりと見え頭は二ツに割け脳骨砕けて脳味噌散乱したる有様実に目も当られぬ程なり医師の診断に由れば孰れも午前二三時頃に受けし傷なりと同人の着服は紺茶堅縞の単物にて職業も更に見込附かず且つ所持品等は一点もなし其筋の鑑定に拠れば殺害したる者が露見を防がんが為めに殊更奪い隠したる者ならん故に何所の者が何の為めに斯く浅ましき死を遂げしや又殺害したる者は孰れの者か更に知る