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むざん

無惨

黒岩 涙香

「小説叢」1889(明治22)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,602 字 · 56 页

青空文庫

場合が有ますよ、夫は何かと云うに鬘です鬘や仮面には随分逆毛が沢山交ッて居ます夫だから私しは若しや茶番師が催おしの帰りとか或は又仮粧蹈舞に出た人が殺したでは無いかと一時は斯も疑ッて見ました併し大隈伯が強硬主義を取てから仮粧蹈舞は悉皆無くなるし夫かとて立茶番も此頃は余り無い、夫に逆毛で無い後の二本を熟く検めて見ると其根の所が仮面や鬘から抜た者で無く全く生た頭から抜た者です夫は根の附て居る所で分ります殊に又合点の行かぬのは此縮れ具合です、既に天然の縮毛では無く全く結癖で斯う曲ッて居るのですから何う云う髪を結べば此様な癖が附ましょう、私しは宿所へ来る髪結にも聞きましたが何うも分らぬと云いました、爾すれば最う全然分らん、分らんのを能く/\考えて見ると有りますワエ此通り髪の毛に癖の附く結い方が、エ貴方何うです、此癖は決して外では無い支那人ですハイ確に支那人の頭の毛です

荻沢警部は暫し呆れて目を見張りしが又暫し考えて「夫では支那人が殺したと云うのか(大)ハイ支那人が殺したから非常な事件と云うのです、固より単に人殺しと云うだけの罪ですけれど支那人と有て見れば国と国との問題にも成兼ません