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むざん
無惨
黒岩 涙香
「小説叢」1889(明治22)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,602 字 · 56 页
様をして偸み聴、人を見れば盗坊と思えちょう恐き誡めを職業の虎の巻とし果は疑うに止らで、人を見れば盗坊で有れかし罪人で有れかしと祈るにも至るあり、此人若し謀反人ならば吾れ捕えて我手柄にせん者を、此男若し罪人ならば我れ密告して酒の代に有附ん者を、頭に蝋燭は戴かねど見る人毎を呪うとは恐ろしくも忌わしき職業なり立派と云う所を云えば斯くまで人に憎まるゝを厭わず悪人を看破りて其種を尽し以て世の人の安きを計る所謂身を殺して仁を為す者、是ほど立派なる者あらんや
五日の朝八時頃の事最寄警察署の刑事巡査詰所に二人の探偵打語らえり一人は年四十頃デップリと太りて顔には絶えず笑を含めり此笑見る人に由りて評を異にし愛嬌ある顔と褒めるも有り人を茶かした顔と貶るも有り公平の判断は上向けば愛嬌顔、下へ向ては茶かし顔なる可し、名前は谷間田と人に呼ばる紺飛白の単物に博多の角帯、数寄屋の羽織は脱ぎて鴨居の帽子掛に釣しあり無論官吏とは見えねど商人とも受取り難し、今一人は年廿五六小作りにして如才なき顔附なり白き棒縞の単物金巾のヘコ帯、何う見ても一個の書生なれど茲に詰居る所を見れば此頃谷間田の下役に拝命せし者なる可し此男テーブル越に谷間田の顔を見上げて「実に不思議だ、何う云う