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むげつものがたり

無月物語

久生 十蘭

「オール讀物」1950(昭和25)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,485 字 · 36 页

青空文庫

。そのほうはよかったが、おいおい子供たちが大きくなり、上の三人を大学寮へ送らなければならぬ齢がすぎているのに泰文はなにも言いださない。今年は今年はと待っているが辛抱しかね、ある日おそるおそる切りだしてみた。

泰文は羅の直衣を素肌に着、冠もなしで広床の円座にあぐらをかいていたが、

「お前のいう子供とは、いったい誰の子供のことか」

と欠伸まじりに聞きかえし、それが自分の子供のことだと聞かされると、雷にでもうたれたような顔をした。そういえばこの家にも子供が何人かいたようだと、ようやく思いだしたらしかったが、その折、またなにか忙しい思いつきがあったのだとみえ、いいようにしたらよかろうであっさりと話をうちきってしまった。

翌年、長男の文雄が省試の試験に及第し、秀才の位をとったという話を泰文はよそで聞いたが、ふとその学資はどこから出ているのかと疑問をおこした。朝霞が家計のなかからひねりだしているのならそれこそゆるしがたいことなので、帰るなり北ノ坪へ行って問いつめると、朝霞はやむなく身附きの自領の上りから払っていたことを白状した。泰文は無気味な冷笑をうかべ、それはもともと嫁資の一部をなしているはずのものだから、そうと聞いたからには、さっそくこちらの領分へとりこむ、金のかかる三人のやつめらは、今日かぎり勘当するが、なお、