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むほうもの

無法者

豊島 与志雄

「中央公論 文芸特集」1951(昭和26)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,837 字 · 24 页

青空文庫

」

「仕方ありません。是非そうしてくれと、あなたが仰言るんでしたら……。」

房代夫人はまた彼の手首を押えた。

「笑っていらっしゃいますね。実は、真面目に聞いて頂きたいことがございますのよ。申し上げようかどうしようかと、迷っていましたけれど、今日はよい機会ですから、思い切って申しましょう。ただ黙って、なんの弁解もせずに、聞いて下さいよ。」

「御意のままにします。俎上の鯉となりましょう。」

志村はそれまでに、三杯のカクテルを飲み干してしまった。房代夫人も唇の端っこでカクテルをなめた。それから、通りかかった女中に、また、カクテルを二杯たのんだ。女中の外に、通りかかる客人もあり、房代夫人に挨拶していった。二人は密談してるかのように見えた。

「実は、あなたの奥様として、申し分のないかたがございますのよ。」

地位もあり財産もある家柄のひとで、戦争未亡人だが子供はなく、実家に復籍していて、教養といい人柄といい、志村夫人としてうってつけだそうである。

志村はにやにや笑った。

「それは光栄ですな。酒の肴にするには、少し勿体ないお話じゃありませんか。」

カクテルをなめる志村を、房代夫人は睨むように眺めた。