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ぶらいはうたず

無頼は討たず

山本 周五郎

「キング」大日本雄弁會講談社 、1936(昭和11)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,446 字 · 23 页

青空文庫

「それで身内の人たちは――?」

「それがねえ、初めのうちは若親分を措いて自分たちだけで殴り込みをかけ、親分の仇を討つんだと騒いでいたようですがね、当節はみんな利に敏くなっていますから、一人ぬけ二人ぬけ――中には猪之助親分の盃を貰う者も出来たりして、とうとうおじゃんになってしまいましたよ」

「半太郎さんと云うのはどうしましたえ」

「ここを行った辻のところへ店を持ちましてね、毎日近在へ太物の担ぎ商いに出ていなさいますだが、若いに似合わず親孝行な良い息子さんでございますよ」

「――そうかねえ、ふーん」

「おや、そう云えばそれ、向うへ風呂敷包みを背負った人が来ましょうが、あれがその半太郎さんでございますよ」

旅人は老婆の指さす方を見やった。

半太郎は、すっかり日に焦けた、木綿物の袷に小倉の帯、垢まみれの足袋をはき、大きな荷を背負って――額には汗さえ滲んでいる。茶店の前へかかると、

「良い日和でございました」

と老婆に愛想を云って通り過ぎた。

日が暮れかかっていた、釜梨川の方から夕靄が立ち始めて、駒ヶ岳の峰だけがくっきりと斜陽を受けている――半太郎は額の汗を拭きながら黙って畷手道にかかった。