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むだい(いち)

無題(一)

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 20,502 字 · 41 页

青空文庫

詩「さようならさようなら」と帽子を振りながら門を出ました。女のかおはいつまでもいつまでもみどりの木立の間に見えていました。

旅人は小さい白い小犬に誘われていつにもなく足早にそしてつかれずに歩きました。森を三つ許り越えた時目の前にもう村の入口が見えました。白い小犬の姿は見えませんでした。詩人はそこの立石のわきに腰をおろして汗をぬぐいながらいつの間にか、初夏の装をした村の様子を見まわしました。女達の着物はみんな薄色になって川辺には小供達がボートをうかべています。いつも行く森はまっくろいほどにしげってその中に美の女神の居る様な沼の事や丈高く自分の丈より高く生えている百合の事などを詩の人の頭にうかばせました。若い旅の詩人は大きい目をくるくる働らかせながら云いました。

詩「ああ、とうとう村に来た。もうすぐ私の家だ。私はもう彼の不思議な女と四月もくらして居たのだ。そして私はその間に不思議な所も見不思議な話もきいた。私は此れからそれを書かなくては。そろそろ私は早くかえらなくては。あの時ローズは私の手をにぎって涙を流しながらもほほえんで『私はネ貴方と遊べなくなるのがそれは悲しいのだけれども貴方のためだから泣きますまい。