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つばくろ(つばくろ)
燕(つばくろ)
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1960(昭和35)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,395 字 · 52 页
渡貫は唇をひきしめ、空を見あげていた眼を相川へ戻しながら、ひそめた声で叫ぶように云った。
「万全の手段などというものはない、そういう考えかたは老人のものであり、燃えあがるべき火を消す役にしか立たない、いいか、われわれの目的を要約して云えば、伝統を打ち壊すということだろう、それを常識に即してやろうというのは間違いだ、根本的な考え違いなんだ」
「おい、ちょっと見ろ」と相川が手をあげて云った、「――あの縁側、あそこに立っているのは渡貫老じゃあないか」
渡貫は松林の端のところまで進み出、眼を細めて向うを見た。
「祖父だ」と彼は口の中で呟いた、「――見に来たんだな」
「見に来たとは、――なにを」
「おれがやるかやらないかをさ」と渡貫は云った、「いまおれがなすべきことは、改革断行の火を放つことだ、今日ここで、おれが老臣の一人でも斃すことができれば、くすぶって消えかかっている火が燃えあがる、おれはよろこんで一本の焚木になるぞ」
「おい、待て」と相川が渡貫を追いながら云った、「渡貫ひとりではむりだ、どうしてもやるのならおれもやる、だがそのまえに手筈をきめよう、やるなら仕損じのない